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神戸地方裁判所 昭和63年(ワ)647号 判決

原告

高田榮子

被告

早川徹

主文

一  被告は、原告に対し、金七三六万一九四四円及び内金六六九万一九四四円に対する昭和六〇年七月九日から、内金六七万円に対する平成元年一二月二七日から、いずれも支払ずみまで年五分の割合による各金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の、その一を被告の、各負担とする。

四  この判決の主文第一項は、仮に執行することができる。

事実

一  当事者双方の求めた裁判

1  原告

(一)  被告は、原告に対し、金一四九二万六一四六円及び内金一三五六万九二二四円に対する昭和六〇年七月九日から、内金一三五万六九二二円に対する平成元年一二月二七日から、いずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は、被告の負担とする。

(三)  仮執行の宣言。

2  被告

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は、原告の負担とする。

二  当事者双方の主張

1  原告の請求原因

(一)  別紙事故目録記載の交通事故(以下、本件事故という。)が発生した。

(二)  被告は、本件事故当時、被告車を保有していた。

よつて、被告には、自賠法三条により、原告の本件損害を賠償する責任がある。

(三)  原告の本件受傷内容及びその治療経過は、次のとおりである。

(1) 頭部外傷Ⅱ型、左第四ないし第七肋骨骨折、胸、背、腰、左大腿打撲、頸椎捻挫、頸髄損傷の疑い。

(2) 康雄会西病院 昭和六〇年七月八日から同年七月三〇日まで入院。(二三日間)

甲南病院 昭和六〇年七月三〇日から同年一一月二二日まで入院。(一一六日間)

昭和六一年五月三〇日から同年六月二日まで入院。(四日間)

昭和六〇年一一月二三日から昭和六一年五月二九日まで、同年六月三日から同年九月一六日まで一〇か月通院。

(3)(a) 昭和六一年六月一三日症状固定。

(b) 後遺障害の内容

頭痛、めまい、吐き気、頸椎異常による上肢知覚障害、筋力低下、背柱傷害。

(四)  原告の本件損害

(1) 治療費 金一一四万九三四〇円

康雄会西病院分 金一〇三万六七五〇円

甲南病院分 金一一万二五九〇円

(2) 付添看護費 金一四万二六二〇円

(3) 入院雑費 金一四万三〇〇〇円

入院期間一四三日間中一日当り金一〇〇〇円の割合。

(4) 交通費 金六万六四七〇円

昭和六〇年一一月分から昭和六一年六月分まで。

(5) 文書科 金三万五五〇〇円

(6) 休業損害 金二二〇万五〇〇〇円

(イ) 原告は、本件事故当時、喫茶及び軽食店を経営し一か月金三一万五〇〇〇円の収入を得ていた。

即ち、原告は、肩書住所マンシヨン古堂の一階で、「コドー」という商号で喫茶店及び軽食店を経営し、昭和五九年一一月一日から右店舗の経営を訴外安田格生に委託し、右営業の売上げから、毎月家賃金六万五〇〇〇円及び経営委託費金二五万円合計金三一万五〇〇〇円の収入を得ていたものであり、昭和六〇年六月から、訴外京藤純子に右店舗経営を委託し、同じく金三一万五〇〇〇円の収入を得ていた。

(ロ) 原告の本件受傷による休業期間は、昭和六〇年七月八日から昭和六一年一月三一日までの七か月間であり、原告の右収入は、本件入院により全く途絶えた。

(ハ) 右各事実から、原告の本件休業損害は、金二二〇万五〇〇〇円となる。

31万5,000円×7=220万5,000円

(7) 後遺障害による逸失利益 金六九〇万〇五八三円

(イ) 原告の本件後遺障害の内容は、前叙のとおりである。

(ロ) 原告は、本件症状固定時五六歳(昭和四年一二月一七日生)の女子であつたところ、同人の右後遺障害による労働能力の喪失率は三五パーセント、右労働能力の喪失期間は、同人の就労可能年数の一一年間である。

しかして、同人の右症状固定時における収入は、女子五六歳労働者の平均賃金年額金二三〇万五二〇〇円である。

(ハ) 右各事実を基礎として、原告の本件後遺障害による逸失利益の現価額をホフマン式計算方法によつて算定すると、金六九〇万〇五八三円となる。(新ホフマン係数は、八・五九〇)

230万5,200円×0.35×8.590=693万0,583円

(8) 慰謝料 金六六七万六〇〇〇円

(イ) 入通院分 金二一〇万円

(ロ) 後遺障害分 金四五七万六〇〇〇円

(五)  損害の填補

(1) 自賠責保険金

傷害分 金一二〇万円

後遺障害分 金二一七万円

(2) 被告からの受領分 金九万円

(3) 被告の支払つた文書代分 金三万五五〇〇円

合計 金三四九万五五〇〇円

(六)  弁護士費用 金一三五万六九二二円

(七)  よつて、原告は、本訴により、被告に対し、本件損害総計(ただし、弁護士費用を除く。)から本件損害の填補額を控除した損害金一三八五万三〇一三円の内金一三五六万九二二四円に弁護士費用金一三五万六九二二円を加えた合計金一四九二万六一四六円及び右弁護士費用を除いた内金一三五六万九二二四円に対する本件事故日の翌日である昭和六〇年七月九日から、弁護士費用金一三五万六九二二円に対する本件判決言渡の日の翌日である平成元年一二月二七日から、いずれも支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  請求原因に対する被告の答弁及び抗弁

(一)  答弁

請求原因(一)、(二)の各事実は認める。同(三)中原告が本件事故により受傷したことは認めるが、同(三)のその余の事実は全て不知。同(四)(1)ないし(5)の事実は全て不知。同(6)の事実は否認。原告には本件事故当時収入がなかつた。即ち、同人は、昭和六〇年七月三一日まで生活保護法による給付を受けていた。同(7)の事実は否認。原告にその主張にかかる逸失利益は存在しない。蓋し、仮に同人にその主張にかかる収入があつたとしても、右収入は経営委託費であつて自ら営業して得ていたものでないからである。同(8)の主張は争う。同(五)の事実は認める。同(七)の主張は争う。原告には、その主張にかかる休業損害及び逸失利益は存在しないから、仮に同人に本件損害が存在したとしても、その合計は金八一四万三六四一円となるところ、原告には、後叙抗弁(過失相殺)で主張するとおり本件事故発生に対する過失割合八〇パーセントの過失が存在するから、右損害額を右過失割合で所謂過失相殺し、しかる後、右損害額から前叙損害填補額を控除すると、右損害額は、消滅してしまう。よつて、原告の右主張は全て理由がない。

(二)  抗弁(過失相殺)

(1) 本件事故現場である道路は幹線道路であり、しかも、右事故現場から西方約三〇メートルの地点に横断歩道が存在する。

(2) しかるに、原告は、本件事故直前、右幹線道路を横断するに際し、右横断歩道を歩行せず、しかも、左右の安全を確認もせず、車道上に飛び出して、右事故を惹起した。

(3) 右事実関係から、原告にも本件事故発生に対する過失が存在し、右過失は、同人の本件損害額を算定するに当り斟酌すべきである。

しかして、原告の右過失割合は八〇パーセントである。

3  抗弁に対する原告の答弁

抗弁事実は全て争う。本件事故現場は、本件道路の西側信号交差点と東側信号交差点間約一〇〇メートルの区間のほぼ中間地点であるところ、原告は、本件事故直前、右東西交差点双方の信号機がいずれも赤色表示であることを確認し、更に、西方から東方への進行車両がないことも確認のうえ、本件横断を開始した。そして、同人が右横断を開始した直後、本件事故が発生した。

なお、本件道路は、住宅街、商店街に面する道路であり、日常から横断歩道外横断の良く見かける場所である。

右事実から、仮に原告に本件事故発生に対する過失があつたとしても、その過失割合は、たかだか三〇パーセント程度に過ぎない。

三  証拠関係

本件記録中の書証、証人等各目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一1  請求原因(一)、(二)の各事実(本件事故の発生、被告の責任原因)、同(三)中原告が本件事故により受傷したことは、当事者間に争いがない。

2  右事実に基づけば、被告には、自賠法三条により、被告の本件損害を賠償する責任があるというべきである。

3  成立に争いのない甲第二、第三号証、第六、第七号証及び弁論の全趣旨を総合すると、原告の本件受傷内容及びその治療経過として、次の各事実が認められ、その認定を覆えすに足りる証拠はない。

(一)  頭部外傷Ⅱ型、左第四ないし第七肋骨骨折、腕、背、腰、左大腿打撲、外傷性頸部症候群。

(二)  康雄会西病院 昭和六〇年七月八日から同年七月三〇日まで入院。(二三日間)

甲南病院 昭和六〇年七月三〇日から同年一一月二二日まで入院。(一一六日間)

昭和六一年五月三〇日から同年六月二日まで入院。(四日間)

昭和六〇年一一月二三日から昭和六一年六月一三日まで通院。(実治療日数三九日)

(三)  昭和六一年六月一三日症状固定。

(四)  障害等級九級該当の後遺障害が残在。

4  原告の本件損害

(一)  治療費 金一一四万九三四〇円

前掲甲第二号証、第六号証、成立に争いのない甲第八号証乙第一七号証によれば、次の各事実が認められ、その認定を覆えすに足りる証拠はない。

康雄会西病院分 金一〇三万六七五〇円

甲南病院分 金一一万二五九〇円

(二)  付添看護費 金一四万二六二〇円

被告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第四号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、原告には、同人の本件入院期間中昭和六〇年七月二〇日から同月二五日までの一五日間病院側の要請により専門付添婦が付添看護に当り、その費用として金一四万二六二〇円を要したことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

右認定事実に基づき、右付添看護費金一四万二六二〇円を本件事故と相当因果関係に立つ損害(以下本件損害という。)と認める。

(三)  入院雑費 金一四万二〇〇〇円

原告の本件入院期間が一四二日(昭和六〇年七月三〇日の入院は、前叙治療両病院にまたがつている故、入院期間としては一日と認めるべきである。)であることは、前叙認定のとおりであり、弁論の全趣旨によれば、同人は右入院期間中雑費を支出したことが認められるところ、本件損害としての入院雑費は、一日当り金一〇〇〇円の割合で、合計一四万二〇〇〇円と認める。

(四)  交通費

成立に争いのない甲第一七号証の一ないし六一、七〇、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、原告は、本件通院に医師の指示によりタクシーを使用し、昭和六一年一一月二五日から昭和六一年六月一三日までの間、その費用として合計五万九〇三〇円を要したことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

右認定事実に基づき、右交通費合計金五万九〇三〇円も本件損害と認める。

なお、原告は、本件症状固定日である昭和六一年六月一三日の後の通院交通費をも本件損害として請求しているが、右請求部分は理由がない。蓋し、症状固定後の通院交通費が当該交通事故と相当因果関係に立つ損害と認められるには、症状固定後の治療を必要とする特別の事情の主張・立証を必要とすることろ、本件においては、症状固定後の治療、したがつてそのための通院交通費を必要とする右特別の事情の主張立証がなく、右通院交通費を本件損害と認め得ないからである。

(五)  文書科 金三万五五〇〇円

前掲乙第四号証、被告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第八ないし第一一号証によれば、原告の本件文書科として合計金三万五五〇〇円を必要としたことが認められ、右認定事実から、右文書料金三万五五〇〇円も本件損害と認める。

(六)  休業損害 金一八九万円

(1)(イ) 成立に争いのない甲第一〇号証、原告の存在及び成立とも争いのない甲第一一ないし第一四号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、原告は、本件事故当時、原告の肩書住所地所在マンシヨン古堂の内一階店舗において、「コドー」なる名称で喫茶店及び軽食店を経営していたこと、ただし、原告は、その当時、右「コドー」の経営を訴外京藤純子に委託し、原告自らは右京藤から、一か月金三一万五〇〇〇円(生活補償費金二五万円、家賃及び共益費金六万五〇〇〇円の合計額。)の支払を受けていたこと、ところが、右京藤は、原告の本件受傷入院治療を機として昭和六〇年九月分から右金員の支払をしなくなつたこと、原告は、昭和六〇年九月五日、前叙店舗の貸主訴外有限会社三晶から右店舗の明渡訴訟を提起されていたが、昭和六一年一月頃、右訴訟において右店舗を明渡す結果となり、その後、右店舗の借主名義も右京藤に変わつてしまつたこと、原告が本件事故に遭遇しなければ、同人と右京藤との間の右委託経営関係も良好に持続され、原告も右京藤から継続的に右金三一万五〇〇〇円の支払を受け得たことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(ロ) 右認定各事実に基づけば、原告は本件事故当時一か月金三一万五〇〇〇円の収入を得ていたというべきである。

もつとも、被告は、原告において本件事故当時生活保護法に基づく給付を受けていたから無収入であつた旨主張し、それにそう成立に争いのない乙第三号証も存在する。

しかしながら、成立に争いのない甲第一六号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、原告は内縁の夫訴外河本国明と肩書住所地において同棲生活を送り同人を扶養していたところ、右河本が昭和五九年一〇月頃癌に罹患し入院したこと、しかし、右河本の右入院治療費がかさみ、原告の前叙営業利益中からこれを捻出するのが不可能なため、生活保護法の適用を受け無料で右医療を受けるようにしたこと、ただ右方策は、右河本が病院関係者と相談して決定したこと、右河本が昭和六〇年三月二八日死亡したこと、原告としては、右時点で生活保護給付を打切れば良かつたが、隅々、昭和六〇年三月から五月まで右営業収入が途絶えたため、そのまま右給付を継続して受給してしまつたこと、しかし、右受給も、昭和六〇年六月になつて原告において右営業からの収入を得られるようになつたため、その後廃止になつたことが認められ、右認定各事実に基づけば、原告の右生活保護給付の受給自体に対する法的当否の評価はともかく、右生活保護受給金とは別個に前叙収入そのものが存在し、これを同人の本件事故による休業損害算定の分野で問題にする限り、同人に本件事故当時右収入が存在したとの前叙認定は、右生活保護給付の受給によつて何等左右されないというのが相当である。

よつて、被告のこの点に関する前叙主張は、理由がなく採用できない。

(2) 原告の本件休業期間は、原告の前叙本件治療期間や、前叙「コドー」の経営に関する認定各事実に基づき、本件事故日の昭和六〇年七月八日から昭和六一年一月七日までの六か月間と認めるのが相当である。

(3) 右認定各事実に基づくと、原告の本件休業損害は、金一八九万円となる。

31万5,000円×6=189万円

(七)  後遺障害による逸失利益 金六九三万〇五八三円

(1) 原告の本件受傷が昭和六一年六月一三日症状固定したこと、その結果、同人に障害等級九級該当の後遺障害が残存したこと、同人が右症状固定時無職であつたことは、前叙認定のとおりである。

(2)(イ) 原告は右認定のとおり無職であるとしても、前掲甲第三号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば同人は、本件症状固定時五六歳(昭和四年一二月一七日生)の女子であつたところ、同人自身は家庭外で仕事に就きたいものの本件後遺障害のためその実現ができないこと、それのみならず、同人は主婦として家事処理にも当らねばならないところ、右家事処理も右後遺障害によるめまい、吐き気、左手握力の低下による箸や茶碗等の落下、階段の昇降苦痛等のため支障を来たし、本件事故前と同程度の処理ができないことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(ロ) ところで、主婦の家事労働が財産上の利益を生じるものであり、これを金銭的に評価することが不可能とはいえないと解されるところ、右認定各事実に基づくと、

(a) 原告は、本件症状固定時、本件事故に遭遇しなければ、少なくとも家事労働に従事することによる財産的利益を得ていたというのが相当であり、その場合の右財産的利益は、昭和六一年賃金センサス第一巻第一表産業計企業規模計女子労働者学歴計五五歳~五九歳の平均賃金年額によるのが相当である。

しかして、本件において、原告は、右平均賃金として年額金二三〇万五二〇〇円を主張しているので、右金額によるのが相当である。

(b) 原告は、現在、本件後遺障害のためその労働能力を喪失し、現実に経済的損失、即ち実損を蒙つているというべきである。

しかして、同人の右労働能力の喪失率は、右認定各事実に所謂労働能力喪失率表を参酌して三五パーセントと認めるのが相当である。

又、同人の右労働能力喪失期間は、同人の就労可能期間と同じく六七歳までの一一年と認めるのが相当である。

(3) 右認定各事実を基礎として、原告の本件後遺障害による過失利益の現価額をホフマン式計算方法にしたがつて算定すると、金六九三万〇五八三円となる。(新ホフマン係数は、八・五九〇。円未満切捨て。)

230万5,200円×035×8.590≒693万0,583円

(八)  慰謝料

(1) 入通院分 金二〇六万円

原告の本件入通院期間は、前叙認定のとおりである。

右認定事実に基づけば、原告の本件入通院分慰謝料は金二〇六万円が相当である。

(2) 後遺障害分 金四五七万円

原告に障害等級九級該当の後遺障害が残存していることは、前叙認定のとおりである。

右認定事実に基づけば、原告の本件後遺障害分慰謝料は金四五七万円が相当である。

(九)  以上の認定説示から、原告の本件損害の合計は、金一六九万九〇七三円となる。

二  被告の抗弁(過失相殺)について判断する。

1  本件事故の態様は、前叙のとおり当事者間に争いがない。

2(一)  成立に争いのない乙第一号証、付陳事実に争いのない甲第一五号証の一ないし九、原告本人、被告本人の各尋問の結果(ただし、原告本人の右供述中後示信用しない部分を除く。)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認められる。

(1) 本件事故現場の存在する道路は、直線状をなすアスフアルト舗装路であり、車道の幅員九メートル、その南北に接する路側帯の幅員各一メートルから成り、中央線で二車線に区分されている。

又、右事故現場の西方約三〇メートルの地点に信号機の設置された交差点が存在し、右交差点の東方入口には横断歩道が設定されている。

右事故現場付近は、市街地で交通はひんぱんであり、右付近における夜間の明暗は照明により明るく、又、右付近の制限速度は高中速車で時速四〇キロメートルである。

なお、右事故当時の天候は晴で路面は乾燥していた。

(2) 原告は、本件事故直前、偶々本件事故現場に駐車していた車両の前方(東側)に停車したタクシーから降り、右事故現場南側に存在する肩書住所地所在マンシヨン古堂内二階の自宅に帰るべく、右駐車車両前部と右タクシー後部との間から、西方の安全を充分確認しないまま右車道中央方面(南方)に向け走り出たため、本件事故が発生した。

なお、被告車は、右事故当時、時速約四〇キロメートルで走行し、前照灯を点灯していた。しかして、被告車は、前叙西方信号機の設置された交差点を右信号機の表示青色にしたがつて通過し、右事故現場付近に至つたものである。

(二)  右認定に反する原告の右供述部分は、前掲各証拠と対比してにわかに信用することができず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

3(一)  右認定各事実を総合すれば、原告にも本件道路を横断するに際し、横断歩道を歩行せず、しかも、右車道西方に対する安全確認不充分のまま右車道内に走り出た過失があり、右過失が本件事故発生に寄与している。したがつて、原告の右過失は、同人の本件損害額を算定するに当り斟酌するのが相当である。

よつて、被告の抗弁は、理由がある。

(二)  しかして斟酌される原告の右過失割合は、前叙認定各事実に基づき、全体に対し四〇パーセントと認めるのが相当である。

そこで、原告の前叙損害合計金一六九七万九〇七三円を右、過失割合で所謂過失相殺とすると、その後の右損害額は、金一〇一八万七四四四円となる。(円未満四捨五入。)

三  損害の填補

原告が本件事故後本件損害に関し合計金三四九万五五〇〇円を受領したことは、当事者間に争いがない。

右事実によれば、右受領金合計金三四九万五五〇〇円は、本件損害の填補として、原告の前叙損害金一〇一八万七四四四円から控除されるべきである。

しかして、右控除後の右損害は、金六六九万一九四四円となる。

四  弁護士費用 金六七万円

弁論の全趣旨によれば、原告は、被告が本件損害の賠償を任意に履行しないため、弁護士である原告訴訟代理人に本件訴訟の提起を委任し、その際相当額の弁護士費用を支払う旨約したことが認められるところ、本件訴訟追行の難易度、その経緯、前叙請求認容額等に照らし、本件損害としての弁護士費用は金六七万円と認めるのが相当である。

五  結論

1  以上の全認定説示を総合し、原告は、被告に対し、本件損害合計金七三六万一九四四円及び弁護士費用を除いた内金六六九万一九四四円に対する本件事故の日の翌日であることが当事者間に争いのない昭和六〇年七月九日(この点は、原告自身の主張に基づく。)から、弁護士費用内金六七万円に対する本判決言渡の日の翌日であることが本件記録から明らかな平成元年一二月二七日(この点も、原告自身の主張に基づく。)から、いずれも支払ずみまで民法所定年五分の割合による各遅延損害金の支払を求める権利を有するというべきである。

2  よつて、原告の本訴請求は、右認定の限度で理由があるからその範囲内でこれを認容し、その余は理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を、各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 鳥飼英助)

事故目録

日時 昭和六〇年七月八日午後九時三〇分頃

場所 神戸市東灘区本山南町四丁目二番一号先路上

加害(被告)車 被告運転の原動機付自転車

被害者 原告

事故の態様 原告が右事故現場付近でタクシーより下車し、道路反対側道路に行くため、北方より南方へ向け道路を横断中、西方から東方へ向け走行して来た被告車と衝突した。

以上

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